新月
「ふ・・・・ん・・・・・っ。・・・ぁ・・・・・あっ・・・・ん・・・も・・・・っと・・・。」
エドワードの甘ったるい声が、室内に響く。
その声を聴くだけでアルフォンスは自分が興奮していくのが分かった。
しかし、アルフォンスは興奮して力を込めてしまわないように、注意深くエドワードの両胸の突起をこね回した。
強弱をつけて軽く強く・・・・・・・。
(僕に爪があったなら、兄さんの乳首をひっかいてあげられるのに・・・・・・。)
アルフォンスはそんなことを考えて一人ほくそ笑んだ。
アルフォンスの手がエドワードの雄を布越しに撫でる。そこはすでに硬く立ち上がっていた。
「兄さん・・・・・・。もうこんなにして・・・・・・くすっ。」
今度はエドワードに分かるように微笑む。そのほうがエドワードが感じるからだ。
「い・・・・う・・・なっ・・・・!」
エドワードの興奮に染まった頬が更に赤く色づく。
アルフォンスは、自分の指を下着の上から何度も何度も往復させる。エドワードが我慢できなくなるまで・・・・。
「兄さんの下着、もうビショビショじゃない?・・・・・いいの?」
アルフォンスは意地悪くエドワードに語りかける。
「・・・・もっ・・・・・ぁ・・・・だ・・・!・・・・・は・・・・やく!」
エドワードが涙を浮かべてアルフォンスに抗議する。
「はいはい。兄さんはワガママなんだから。」
「な・・・・んだ・・・・・と・・・・っ!」
アルフォンスは笑いながらエドワードの下着を剥ぎ取っていく。
「ひゃ・・・ん!!」
怒ったエドワードを諌めるためにアルフォンスはエドワードの雄をいきなりつかんだ。
蜜を零す雄にそれを塗りたくる。優しく優しく・・・・・・・・・。
くちゅくちゅといやらしい音がしてきたところで、アルフォンスは右手の人差し指でエドワードの口腔内をまさぐる。
「ん・・・ぅ。・・・・・ふっ・・・・・んん・・・・・・・・・ぅ。」
エドワードの唾液が顎を伝い落ちる。
それは、まるで深い口づけをしているかのようだった。
「兄さん、力ぬいて・・・・。」
エドワードはアルフォンスの言葉で期待に体を震わせた。
体の中にアルフォンスの一部が入ることが、エドワードにとってアルフォンスとつながっていることの実感でもあった。
エドワードの唾液で塗れた指をゆっくりと蕾に沈めていく。
「はぁっ・・・・・・んぅ!!」
「痛い?兄さん。」
「ん・・・ん、いた・・・・く・・・・・ない。」
エドワードは恍惚の表情で答える。
「兄さん・・・・・こういうときは『きもちいい』って言うんでしょ?」
アルフォンスはエドワードの蕾の更に奥へ指を進める。
「あぁぁぁぁぁっ!!」
「ほら?」
アルフォンスは蕾の中でクイクイと指を曲げてエドワードの言葉を促す。
「んぅ・・・・・・・・ぁっ・・・・き・・・もちぃ・・・・。」
「素直な兄さんは可愛いよ・・・・・。」
アルフォンスがそう呟くだけでエドワードは再び快感に震えた。
「ひゃ・・・・あ・・・あ・・・あ・・・・・・・んっ・・・・。」
アルフォンスの指がエドワードの前立腺をたて続けに擦る。
「ア・・・ルゥ・・・・・・・、も・・・・も・・・・・ぅ・・・。」
「いいよ、兄さん。イッて?」
アルフォンスの指の動きが早く激しくなり、淫らな音が部屋中に鳴り響く。
エドワードは体を駆け巡る快感と耳からの卑猥な刺激についに意識を手放した。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!」
アルフォンスはエドワードの雄から出た精液を優しく掌で受け止めた。
アルフォンスは自分という存在を身体中で感じてくれている兄に喜びを感じると共に・・・・・自分の感覚の無さにやりきれなさを感じる。
兄が身体中で感じてくれていることによって、アルフォンス・エルリックという存在を確かめることが出来る。しかし自分自身では、そのことさえ確かめることが出来ない・・・・・。
エドワードもまたアルフォンスから確かに愛撫を施されて快感で頭が朦朧とするが、その温かみのない鎧に失意を抱く。
エドワードにふれる指は確かにアルフォンスのもの。しかし人間とは違う鎧の冷たさが、アルフォンスの存在が無いことを証明していた。
二人の情事は・・・・・・甘く・・・・せつなく・・・・・・・・絶望と隣り合わせのものだった。
けれど・・・・・二人をつなぐたったひとつの感触であり、存在の証明だった。
「弟くん・・・・。あなたは賢者の石に練成されたわ。」
エドワードはラストの言葉に驚くも心中では、やはり・・・・と思っていた。
(これで、アルも俺も元の体に戻れるのか・・・・・?)
希望的観測で胸が高鳴る。しかし、頭では恐ろしい考えがこびりついて離れない。
(賢者の石を使ったらアルは・・・・・ここにいるアルの魂は何処にいっちまうんだ?)
―― アルフォンスの消滅・・・・・。
考えるだけでエドワードは恐怖で狂いそうだった。
じきに賢者の石であるアルフォンスを狙ってホムンクルスたちが追ってくるだろう。
(アルフォンスを消させたりなんかしない!!・・・・・絶対に・・・・・絶対に!!)
エドワードとアルフォンスは逃げた。
エドワードは、アルフォンスのためなら国家の逆賊になろうがなんだろうが構わなかった・・・・・。
(アルフォンスを消させない為なら・・・・・・母と酷似したホムンクルスだろうが・・・・・たとえ自分たちが練成した母のなりそこないだろうが・・・・・・倒してやる・・・・・・・・!
けど・・・・・・・そんな業を背負うのは俺一人でいい・・・・・・・。)
エドワードとアルフォンスの腕が接触した瞬間、それは起こった。
周囲に輝く練成反応の光・・・・・。目の前で開かれる存在しないはずの大きな門。
エドワードが自分の右腕と引き換えにアルフォンスの魂を取り戻した場所・・・・・・。真理の門。
「アル・・・・・・・。」
驚愕に見開かれるエドワードの瞳には絶望が見え隠れした。練成反応の光の意味、行く末をエドワードはその驚愕した瞳に見たのかもしれない。
「・・・・今の何?でっかい門・・・。アレ、前にも見たことがある。兄さん・・・アレが真理?」
「・・・・先生は違うって言ってたけどな・・・・・・。」
「ただ触っただけなのになんで・・・・・?」
「錬金術師である俺が無意識に反応させたらしい・・・・賢者の石を。」
錬金術師であるから・・・・・・・。全ての罪の始まりであり終わりへと導く錬金術が、これほど憎らしく思ったことは無かった。
「兄さんは信じてるの?僕が賢者の石になったなんて・・・・。僕にはそんな実感は無いよ。大体、賢者の石ってこんな・・・・。」
「誰も見たことが無いんだ。どんな形をしていても不思議じゃない・・・・。」
エドワードは、吐き出すように言葉をつなぐ。
「それより・・・・・あまり俺に近づくな・・・・・・。」
「兄さん・・・・・・。」
アルフォンスは一番、恐れていた言葉を聞いた。
お互いが触れることで確かめていた自分という存在に・・・・・それは酷な現実だった。
「迂闊に触れるとまた練成反応が起こる・・・・。お前の体を取り戻す前に、お前自身が消えちまっちゃ意味が無い・・・・!」
「・・・・・うん・・・・・・・。」
触れ合うことの出来ない日々・・・・・・。当たり前に肩を抱くことさえ出来ない・・・・・・。
エドワードの眠れぬ夜が始まった。
アルフォンスと触れ合うことの出来ぬ体は、不安で不安で心が張り裂けそうだった。
ただ一つのアルフォンスを感じることの出来る行為・・・・・・。それを取り上げられたエドワードは情緒不安定に陥った。
そして何よりも、最愛の弟を失くすかもしれないという恐怖がエドワードの精神を苛んだ。
アルフォンスは、ただただエドワードに触れたかった。
時折エドワードに向かって伸びてしまう鎧の腕を、エドワードは悲しそうに見つめた。
(触れて欲しくてたまらない・・・・・・そんな顔をしているくせに・・・・・・・・・・。)
欲望と葛藤の狭間で勝利したものは『兄のそばにいたい』という単純な願いだった・・・・。
アルフォンスは眠れない兄を横目に窓から夜空を眺めた。
どんなに目を凝らしても月は見当たらなかった・・・・・・・。
月は存在していても見えなければ分からない。
アルフォンスは、自分の魂が存在していても、エドワードに触れなければ存在しないのと同じだと・・・・・新月に自分を重ねた。
(このまま一生、兄さんに触れないのなら存在していても仕方ないのではないか?)
アルフォンスの心に不吉な影がかかる。
しかし、エドワードのそばにいたいという気持ちも真実だった。触れることが出来なくとも常に傍らにありたい・・・・・・と。
(それがどんなに苦しいことか分かっていても・・・・・?今、触れないだけで兄さんは夜も眠れないくらい憔悴している!僕が兄さんを苦しめているんだ!!僕は・・・・・・兄さんに何もしてあげられない・・・・・・・・・・。)
アルフォンスとエドワードは、互いに相手を想い苦しんだ・・・・・・・。
エドワードはアルフォンスのため、自分たちが母を練成しようと失敗したホムンクルスさえも倒した。
何を犠牲にしても・・・・・・アルフォンスだけは譲れなかったから・・・・・・・。
(母殺しを2度も行うのは・・・・・・・自分だけで十分だ・・・・・・。)
『アルを攫ったホムンクルスども・・・・・・・俺からアルを奪うことだけは許さない・・・・・。そんなこと・・・・・・絶対に・・・・・不可能だから・・・・・。』
(アルの傍にいられるなら・・・・・・・どんなことだってしてやるさ!!!)
重い重い真理の門を押し開けて・・・・・・・、エドワードは元の世界に戻ってきていた。
「すごいじゃないか!エドワード君!!」
「ドクター・マルコー・・・・・。どうしてここに?」
元の世界に戻ってきたエドワードに声をかけたのは、ドクター・マルコーだった。
しかし、ドクター・マルコーは一瞬にして姿を変えヒューズの姿を取る。
「わかってんだろ?エド。ドクター・マルコーを大総統に預けたのはお前じゃないか?無事なわけねーだろ。とっくにそいつの腹の中さ!お前さんが殺したようなもんだ。ついでに言うとこの俺もな!」
ヒューズの顔をしたラストが途端にナイフをエドワードに投げつける。
「難しいだろ?知ってる顔ってのはさ!例え本人じゃないって言い聞かせたとこでよ!」
至近距離での攻撃をかわし、ラストの後ろを取るエドワード。その途端にラストは、エルリック兄弟の母親の顔に変わる。
至近距離での攻防戦の末、エドワードはラストに馬乗りになり顔面を殴りつける。
殴る度に変わるラストの顔。
そして・・・・・・・。
「鋼の!私を殺す気か?」
ロイ・マスタングの顔になったとき、エドワードは嘲笑った。
「一番、殴りやすい顔だ!!本当の顔を見せろ!!人の姿を借りて心につけこむだけが、お前に出来ることか!?」
「そんなに見たいか!?」
「見せられるもんならなー!!!!」
「見せてやるー!!」
練成反応の後、現したラストの顔は確かに初めて見る顔ではあった・・・・・。
「!?」
ラストが変えたその顔は・・・・・・・エルリック兄弟の父親であるホーエンハイムにそっくりだった。
「どうした?見たかったんだろう?」
「父さ・・・・・ん。」
先ほどまで真理の門の向こうの世界で自分と話していた父親・・・・・・。
(ラストが何故、父さんそっくりなんだ・・・・・・?)
ラストはホーエンハイムが若い頃に作った最初の子。水銀中毒で死んでしまった息子を蘇らせようとし、錬金術を用い失敗した。その果てのホムンクルス・・・・・・それがエンヴィーだった・・・・・。
「そしてヤツは僕を捨てた!!分かるだろう?僕がヤツを嫌いなわけが!!」
そう叫ぶとラストは懇親の力を込めてエドワードを貫いた。
アルフォンスは信じられないものを見た。エドワードの胸を貫くエンヴィーの腕が赤々と染まる。
それはいつもエドワードが着ている赤色のマントのようで、アルフォンスは『やっぱり兄さんには、赤色が似合うな・・・・』と頭の片隅で思った。
エドワードの口から大量の血液が吐捨される。
アルフォンスは、ゆっくりとスローモーションのように倒れるエドワードと目があったような気がした。
倒れたエドワードの顔色は真っ白で、触れれば自分と同じ冷たさを感じるのかもしれない・・・とアルフォンスは思った。
(僕と同じ体温・・・・・?冷たさ・・・・・・?・・・・・・それって・・・・・死んじゃうじゃん・・・・・。)
アルフォンスの心は、ようやく現実を受け止めた。
「・・・・・・・・・兄さん?・・・・・・・・・・・・兄さ ――――― ん!!!」
アルフォンスの呼びかけにエドワードの開いた瞳孔が応えることは無かった・・・・・・・・・。
to be continue...