は薄闇の中で目を開けた。

「・・・・・けーご?」

まるで物語に出てくるお姫様ベッドには横たわっていた。








Dreams come true....2










は弾むベッドから転げるように降りると、一目散に部屋を飛び出した。


「けーごー!!!けーごーーーーー!!!」


廊下に出て、涙目になりながら必死に景吾の名前を呼んだ。





その声を聞きつけた執事が、慌てての元にやってくる。





様、どうなさいました!?」

は見覚えのある人物に少し安堵すると、縋る目で執事に訴えた。



「けーごは?けーご、いないの・・・・・。」



『ガチャ』
の飛び出した部屋のちょうど隣の部屋の扉が、音を立てて開いた。



「・・・・・何事だ?」


寝起きで不機嫌な顔の王子が、そこに立っていた。


「けーご!!!!」

は景吾を見つけると、輝くような笑顔を向けて景吾に飛びついた。


「おわっ!!!!」

景吾は声をあげたが、なんとか体を支えを受け止めた。






様は景吾様の姿が見えなくて不安だったようです。」

そんな仲睦まじい二人の姿を見て、執事が微笑みながら説明した。



「そうか・・・・・・。」

景吾の顔にも笑みが零れる。



、お腹空いたよ。けーご。」

は景吾の顔を覗きこむと、困ったように言った。



は昨夜、車で眠ってから何も食べていないのだ。




景吾は、の言葉に頷く。

「そうだろうな。お前は昨日の夕飯を食べていないんだから・・・。
しかし、先に風呂に入れ。風呂にも入らず眠ってしまったんだから。」


、ばっちいね・・・・。」

は一人言のように呟いた。



景吾は執事とともに笑うと、執事に命じた。

を風呂に入れてやってくれ。」

「畏まりました。」

そう言って、執事は頭を下げた。




しかし・・・・・

、けーごとお風呂に入るのよ?」


のこの言葉に景吾は・・・・・・

「あぁん?」



しばらく考えた後、景吾は前言撤回した。

「仕方ねぇ。俺様がを風呂に入れてやる。」













、目をつぶってろよ・・・・・。」

「うん。」


『シャァアアアアアアアアア・・・・・・・・・』


シャワーで、泡を洗い流す。

の目に泡が入らないように、慎重にシャワーをかける。



トリートメントも同様にして、ようやく景吾はに目を開けることを許可した。

「もう目を開けても良いぞ。」

「うん。」



景吾は手早く自分の髪を洗い終えた。

フローラルな香りが景吾とを包む。



、自分で体を洗えるか?」

、出来るよ。」


そう言うと、景吾が泡をたてたスポンジを受け取り体を洗い始めた。


景吾はそれを見ながら自分の体も洗い出す。

脇の下や足の裏、背中など、が洗い残したところを一緒に洗う。



そして二人は広い浴槽に体を沈めた。


(まさか俺様が、子供を風呂に入れてやる日が来るなんてな・・・・。)

景吾はに危険が無いように注意しながら思った。



「お風呂おっきーねー。」

は広いバスルームをキョロキョロと眺めながら、景吾の膝に座っていた。



との間に娘が出来たら・・・・・こんな感じか?)

景吾は将来を思い浮かべ、一人笑った。




もう出たい。」

「あと10数えてからな。」


「いーち、にーい、さーん、しーい、ごーお・・・・・・・。」


二人で10数え、バスルームを後にする姿は本物の親子のようだった。







入浴を済ませた後、二人は並んでブランチを取った。


。ついてるぞ。」

頬にパン屑をつけたに注意し、取ってやる景吾。

そんな景吾を笑顔で見守る、執事やメイド。


が来て以来、賑やかになった食事の風景。

しかし、今、は屋敷を留守にしている。


再び寂しさを感じさせるはずだった食堂は、のお陰で温かいものに変わった。










「景吾様、お出かけですか?」

に帽子を被せながら、外出の準備をしている景吾を見つけ執事は慌てた。


「あぁ。を連れて、近所を歩き回って見る。もしかしたら家を思い出すかもしれない。」

景吾はそんな執事に答えながら、の格好をもう一度見て満足げに頷いた。


「お車をご用意いたします。」

「構わない。歩いた方がも思い出しやすいだろう。」

「畏まりました。」

執事は頭を下げて、二人を見送った。






春の陽射しが、優しくと景吾を包む。

二人は手をつないで、散歩に出かけた。



は大好きな景吾と一緒にいられること、温かな陽射しに上機嫌で歌を歌いだした。


”London Bridge is falling down,
 Falling down, Falling down.
 London Bridge is falling down,
 My fair lady. ”


は英語の歌が歌えるのか?」

「うん。教室で習ったの。」


が歌った歌は、日本語でも歌詞がついている。

しかしは、原曲の英詩で歌った。


「そうか。将来は素敵なレディーになるな。」

景吾はを褒めると、二人は声を合わせて歌い続けた。



(ロンドン橋落ちる 落ちる 落ちる
 ロンドン橋落ちる 私の素敵なお嬢さん)




跡部の屋敷の周りを一周してみても、は見た事が無い・・・と首を振った。

しばらく近隣を歩き回っていると、公園に辿りついた。

最近、出来たのであろう。

綺麗に設備された大きな公園だった。



「ほぅ・・・・。」

景吾は初めて来た公園に対し、なかなかの評価を下した。



「わぁ〜!!ここで遊びたい!!」

「いいぜ。」


は景吾に許可を貰うと、一目散にブランコに駆けて行った。


「けーご!!一緒にブランコしよ!!」


景吾は笑って頷いた。

をブランコに乗せ、横に立ちのブランコを漕いでやる。

は鈴のようにに笑い、景吾もそんなを見て笑った。



、手を放すなよ。危ないからな。」

「うん!!」




ブランコの後は砂場に駆け寄り、景吾を手招きする

二人は大きな砂山を作った。



公園で遊ぶことなど滅多に無かった景吾だが、子供の頃を懐かしく思った・・・・・。






砂だらけになって帰宅した景吾とに、執事は目を丸くして出迎えた。

そんな執事に、が公園で砂遊びをしたことを楽しそうに語る。


「それは楽しそうですね。」

執事がの目線まで屈みこんでに言うと、は大きく頷いた。

「うん!!とっても楽しかったの!!」


執事は目を細めて笑うと、景吾とに向かい言った。

「さぞかし、お腹も空いたことでしょう?
 夕食を準備いたしますので、その砂を落としていらっしゃって下さい。」


「あぁ。」
「は〜い!!」

は元気に返事をすると、景吾と二人大きな浴室に向かった。






二人は入浴を済ませ、夕食を並んでとった。

は人参が嫌いなようで、キャロットグラッセに手をつけようとしなかった。

景吾はそれを見ると、シェフにの食事には人参を出さないよう伝えさせた。

執事は景吾の甘やかしように困った顔をしたが、その後の食事に人参が出ることは無かった。





夕食後、は景吾に言った。

、一人で寝るの嫌。」


昨夜は車で寝てしまった為、寝ているをそのまま景吾の隣の部屋に寝かせた。

しかしは、まだ一人で寝るには幼さから怖いのだろう。



不安げな瞳で景吾に訴えてきた。

景吾はの気持ちを汲み取り、提案した。



「そうか・・・・。俺様と一緒に寝るか?」

「うん!!」


は喜び勇んで、景吾の部屋に駆けて行った。



景吾の生活は、すっかり一色に染まっていた。




景吾は自分の部屋のベッドにとともに寝転がった。

を寝かしつける為、絵本を読んでいた。

すると・・・・・



『♪〜〜〜〜〜〜〜〜〜♪』



景吾の携帯電話が、着信音を鳴らす。

景吾は一旦本を置き、携帯電話で発信者の表示を見ると眉を上げた。



「俺だ。」

携帯電話の通話ボタンを押して、それだけ言う。



『あ、跡部〜?俺だよ〜。ジローだよ〜。』

「ああん?何か用か?」


『今ね、岳人と春休みの宿題やってたの。』

「それがどうした?・・・まさか・・・・・・・。」


『うん、分からないとこあるから写さしてほしぃ〜。』



予想通りの慈郎の言葉に景吾は溜息を吐いた。

「自分でやらないと勉強にならないだろ。」


『ケチケチすんなよ!跡部!!』

甲高い声が電話越しの耳に響く。


どうやら慈郎から岳人に変わったらしい。


「向日か・・・・。ったく、お前らは。」



景吾が呆れ果てていると・・・・・。


「けーご。ご本まだぁ?」

が大分待たされたため、頬を膨らませて景吾に言った。


「あぁ。悪かったな。」

景吾は苦笑してに謝った。




『ちょ!?ちょ!!今の誰!?跡部!!
 は旅行中のはず・・・・・・。まさか浮気かよ!!!!!!』

岳人は電話越しに聞こえてきたの声に慌てふためき、喚き散らした。


『浮気やて!?跡部もやるさかい。』

遠くで聞こえるのは忍足の声だ。



「・・・・お前ら、バカか?迷子を預かってんだよ。」

景吾は眉間の皺をますます濃くさせて、言葉を返した。



『へぇ〜、迷子かぁ。』

『なんやて!?迷子!?しかも女の子!?犯罪やないか!!』

「忍足、お前はいっぺん死んでおけ・・・・・。」


遠くで聞こえる忍足の叫び声に、景吾は冷徹に呟く。



『跡部!!』

その声が聞こえていないのか、忍足は興奮した声で岳人から電話を奪い取った。


『ほな明日、跡部の家に伺わせてもらうわ。
 宿題を教えてもらうっていう名目もあることやしな!!』

「は!?俺様は来て良いなんて一言も・・・・。」

『ほなまた明日!!』


『ブツッ・・・ツーツーツー・・・・・・』



一方的に切れた電話に景吾は溜息を吐いた。


「けーご?」

が心配そうに景吾を見つめる。


「なんでもねぇ・・・。」

景吾はに笑って応えると、本の続きを読みはじめた。





胸に一抹の不安を抱え、景吾はを寝かしつけた。





(あの変態にを見せたら・・・・・・・・。)





 






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※イギリス民謡 「London Bridge is falling down」