「私ね、大きくなったらイルミのお嫁さんになる!!」




それは幼い頃の私の無邪気な願い・・・・・。




は強いからなぁ!それはゾルディック家も安泰だな!!」
ちゃんがイルミと結婚してくれたらママも嬉しいわ〜!!」

私の無邪気な願いをパパもママも喜んでくれた。
だから私は・・・・・将来、イルミと結婚できるものと信じて疑わなかった。


幼い・・・・・愚かな・・・・・・・・・わたし・・・・・・・・。





 
 
  
 Blood・1








広大な屋敷のバルコニーに佇む影。






、仕事だよ・・・・・・・・・。」

囁くような静かな声の主は、の背後からそっと腕を回した。

その温もりにの心は切なく涙を零す・・・・。


「イルミ・・・・・。」

「なに?」

振り向かず相手の名を呟けば、イルミはそっけなく返事を返す。


「気配を消して私の背後に立たないでよ・・・・。殺しちゃうでしょ?」

が溜息を一つ吐いてイルミに文句を言っても、イルミは動じなかった。


が俺の気配に気づかない訳無いだろ?」



なんでもない言葉なのかもしれない・・・・・・。

けれどそれはの的を射ていた。

誰の気配でも無い・・・・・。イルミの気配だけは、どんなに隠してもどんなに離れても感じることが出来た。


双子だからなのかもしれない。血の繋がりを最も色濃く映した自分の半身・・・・・・・・。




イルミの黒髪とは対照的なの銀色の髪が共に風になびく。


「そろそろ行かなくちゃね・・・?」


は、猫のようにスルリとイルミの腕から逃れると静かに夜空を舞った。



イルミの指が銀髪に名残惜しそうに絡まりながらも、絹糸のように柔らかい髪は指をすり抜けてしまう。



決して捕まえることの出来ない蝶のように・・・・・・・・。














「ターゲットは?」

暗い闇に紛れてはイルミに問う。


「政治家。少し警備が固いくらいかな・・・・・。」

「・・・・・イルミ一人で良いんじゃない?」


「そう?」

無表情なままイルミは感慨も無く呟く。



二つの闇は消え、厳重な警備で守られた政治家の家は安易に闇を招きいれた。









主寝室。そこにターゲットは眠っていた。

ただ一つ計算違いだったのは、ターゲットは愛娘を抱いたまま眠っていたことだ。



「・・・・。」

「だぁれ?」


娘はターゲットである父の腕の中で目を覚ましていた。

これも計算外の一つ。



イルミが鋲を構える。

「待って。」

はイルミを制すると娘に語りかけた。


「子守唄を歌いにきました。そうすれば寝られるでしょう?」

「・・・・・うん。」

娘は少し考えた末、素直に頷いた。


は微笑むと静かに歌いだした。


 

 

”おやすみ おやすみ 可愛い天使に護られて

 天使は夢の中でお前にイエス・キリストの本を見せるだろう

さぁ安らかに楽しく おやすみ 夢の中で天国を見ながら おやすみ”

 

 


『死神の葬送曲(デスサイズ・ハウル)』念音波による死の歌声がターゲットの心臓を破壊した。

物体が持つ固有の波動に音波をぶつけ、破壊する能力だ。

娘はそれに気づかないまま、静かな寝息をたて始めた。


それを見届けたイルミは静かに闇に紛れそこを離れた。

も同じように闇に紛れようとして、娘が何かを握っているのに気づいた。

近づいて見ると、娘が描いたであろう父の姿と白いドレスを着ている娘の絵が握られていた。

拙い字で「パパと結婚する」とも書かれている。



の心臓が大きく鼓動を打った。

『イルミと結婚する!』

幼い夢が記憶が苦々しく喉元まで迫ってくる。

「ふっ!!・・・・っ!!!!!」

ここで声をあげては娘を再び起こしてしまう・・・・・と慌てて主寝室の外に出る。

心の動揺が身体にも表れ、の足首に飾られた鈴がチリンと音をたてた。

が走っても決して音を鳴らすことのない鈴は、の暗殺力の高さを物語っていた。

しかし今、の心の乱れに鈴は簡単にその身を転がしてしまった。


「だれだ!?」

荒々しい声とともに警備の男がかけてくる。

は苦労して娘を起こさないように暗殺したのに台無しだ・・・・とガッカリした。

しかし敵に見つかったお陰で、内心の動揺は落ち着いた。

娘の安眠を守るため、階下へと移動する。

と言っても、すでに起きてしまっているかもしれないが・・・・・。

集まってきた警備の人間を風のような速さで背後にまわり頸動脈を鋭い爪で切っていく。

しかし20人ほど殺したところで、は飽きてきた。

「はぁ〜・・・・・。イルミ〜・・・・・・。」

溜息をついて双子の兄の名を呼ぶ。

が、応答は無い。

はいじけた思いで、迫り来る敵の攻撃をあえてかわさず待ち受けた。



ビュッ!!

鋲が敵の頭に突き刺さる。

「面倒臭くなったからって俺を呼ばないでよ。
 あと返事しないからって、敵の攻撃をわざと受けようとしないでよ。」

「えへへ。でも来ちゃうんだよね?」

は頬を綻ばせて笑った。

それを見たイルミは一つ溜息をつき、敵に向かい合った。



数分後、静まり返ったリビングは死体の山だった。

「今度こそ帰るよ、。」

「うん。」

敵を一掃したイルミがに向き合い、手を出した。

その手を躊躇いもなく取る。

温かな温もり。



「それにしても敵に見つかるなんて、何かあったの?」

イルミの不思議そうな問いかけにに再び動揺が走る。

「別に・・・・・。」

慌てて視線を逸らせば、イルミは無理やりの顔を持ち上げた。

「・・・・?」

有無を言わせない強い口調。


の悲しげな瞳とイルミの真っ黒な瞳が絡まりあう。


あと数センチで触れてしまう唇。


幼い夢。叶わない願い。

それでもの想いは、胸の奥深く息づいてしまう。





(家族でいなければ傍にいられない・・・・・・。)

は視線を断ち切るようにギュッと目をつぶった。

そして、突然イルミに抱きついた。

「!?」

驚くイルミになおも言い募る。

「抱っこ。」

「・・・・・・・。」

黙りこくるイルミには焦れた。

「昔は抱っこしてくれたじゃん!!」

、何歳になると思ってるの?」

「イルミと同じ年!!」

「・・・・・・・。」

イルミはまたひとつ大きく溜息を吐くとを軽々と抱き上げた。

もう先ほどの追求の続きをイルミはしなかった。


はイルミの胸元に顔を寄せ、大きく息を吸い込んだ。

「イルミの匂いがする・・・・・。」




イルミはそんなを見下ろすとゆっくりと歩き出した。

「帰るよ・・・・。」




大事な壊れ物を運ぶように・・・・・・・。


ゆっくりと・・・・・・・・・・。



 

 

 

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※作曲:Brahms  「Wiegenlied(ブラームスの子守歌)」
管理人独唱