≪ えー・・・。これより会長が面談を行います。
番号を呼ばれた方は2階の第1応接室までおこしください。
受験番号44番の方、44番の方おこしください ≫
「面談・・・?」
Blood・10
「姉・・・・、大丈夫?」
キルアは、ベッドに伏せて身動きしないに恐る恐る声を掛けた。
「・・・・うん。」
は顔もあげずに返事をした。
ギタラクルにもらった白い花は、窓際に置かれたコップに挿されている。
花は萎れて、水をあげても元気になることは無かった。
キルアは、4次試験から様子のおかしいに困り果てた。
「俺・・・・・、一緒にハンター試験受けようなんて言わなきゃ良かったかな・・・。」
キルアの独り言に、ようやくは顔を上げた。
「キル・・・。そんなことない。」
キルアとの視線が交わる。
姉の瞳から嘘は感じられず、キルアはの強張った頬から力が抜ける。
「ごめんね。ちょっと・・・いろいろ考えちゃって・・・・。」
「・・・・。聞かせてよ・・・・、姉。」
キルアの真剣な瞳に、は困ったように笑った。
少しの間儔著した様子を見せたが、結局は口を開いた。
「私・・・、好きな人がいて、結婚が嫌で家出したでしょう?
つまり家出するくらい好きな人だったの。
けれど、このハンター試験を受けて、新しく心から好きになれる人を見つけた。
・・・・・でも。」
「・・・・でも?」
の瞳が揺れる。
「本当は・・・・、ギタラクルさんに彼を・・・・・重ねてるだけなのかもしれない。
ふとした瞬間に・・・・ギタラクルさんは、彼を思い出させる。」
「・・・・・・。」
キルアは、目の前にいる姉がどこかへ消えてしまうような・・・そんな錯覚に陥った。
(姉は・・・・、暗殺者=ゾルディックは・・・・こんなにも儚げな女性だったっけ?)
「俺には・・・・まだ恋とか分かんないけど・・・・・。
それは恋だ・・・・恋じゃないってのは・・・・、やっぱ自分が決めるしかないじゃん?」
「うん・・・・・。」
「ギタラクルに対して恋じゃなかったって言うなら・・・・・ごめんなって謝って。
・・・・忘れられないってなら、忘れないでも良いんじゃね?
俺もギタラクルに一緒に謝ってやるから・・・・さ。」
「・・・・キル。」
は、キルアを見上げると潤んだ瞳で笑った。
「ありがとう。」
(家を出てから幾度、この弟に救われたことだろう。)
は、自由を手にして飛び立った弟を眩しく見つめた。
(私は逃げ出しただけ・・・・。それでも・・・何かを掴めると信じてる・・・・・。)
≪ 受験番号99番の方、99番の方おこしください ≫
「お。・・・じゃ、俺行ってくる。」
「うん。」
キルアが部屋を出ると、は顔を洗った。
鏡に映る自分の顔は先ほどより、吹っ切れたようにも見えた。
(キルの次は私だろうから、私もそろそろ出よう。)
キルアと入れ替わるようにして、第1応接室に入るとそこは和室だった。
促されるままに、座布団に座る。
「まず、なぜハンターになりたいのかね?」
ネテロの質問には一瞬ポカンとし、頭を悩ませる。
「う〜ん・・・・・。別になれなくても良い・・・・。」
の返答に気にすること無く、ネテロは飄々と何かを書きこんでいく。
「ふむ。ではおぬし以外の9人の中で一番注目しているのは?」
「気になるのは・・・・・・・301番・・・。」
ここで、ようやくネテロは顔を上げた。
「ほう。では、逆に今一番戦いたくないのは?」
はもう、暗殺者の顔を取り戻していた。
「・・・・44番。」
応接室を退出して、しばらく行くとギタラクルが一人でいた。
は立ち止まった。
そっとギタラクルに近づくと、静かな声で言う。
「あなたを・・・・・・好きだと言ったこと・・・・・
撤回させてください。・・・・すみません。」
ギタラクルはカタカタという音をたてたまま、何も言わなかった。
一瞬後、は踵を返して立ち去った。
ギタラクルの目前で銀髪がなびいていた・・・・。
―― 4次試験終了から3日後
「さて諸君ゆっくり休めたかな?
ここは委員会が経営するホテルじゃが、決勝が終了するまで君達の貸し切りとなっておる。
最終試験は1対1のトーナメント形式で行う。
その組み合わせは・・・・・こうじゃ!!」
「!!」
「さて最終試験のクリア条件だがいたって明確。たった一勝で合格である!!」
試合はゴンvsハンゾーから始まり、クラピカやレオリオは歯軋りする思いをするが、
ゴンの粘り勝ちという結果を収めた。
そして、第2試合・・・・・・
「第2試合!!対ギタラクル」
は寄りかかっていた壁から離れ、中央に寄った。
ギタラクルも同様に、中央へと静かに歩みを進める。
「始め!!」
二人は、立会人の開始の合図を聞いても動かなかった。
に迷いは無い。
既に彼女の中で、一番大切な者の存在は唯一人と固まっているから・・・。
の揺るがない瞳を見て、ギタラクルは口を開いた。
「降参する気はないよね?・・・。」
の瞳が驚愕に開かれる。
自分の声より、確かに記憶しているその声を聞き間違えるはずが無かった。
試合を見守っていたキルアは不思議そうな表情をしていたが、ギタラクルが顔に刺さった無数の針を次々抜いていくと、その表情はと同じ驚愕に変わった。
「兄・・・貴!!」
「・・・・イル。」
ビキビキと音を立てて変形したその顔は、やキルアどことなく似た面差し、さらさらの長い黒髪、白い肌、切れ長の黒い目をした青年だった。
「や。」
イルミは、何でもないことのようにキルアとに挨拶をする。
「、久しぶり。」
は、恐慌状態だった。
会いたくて、会いたくて・・・・、常に求めていた存在がこんなにも近くにいたことに。
は震える体を抱き締めてイルミを見つめる他、術が無い。
(私はどこかで・・・・ギタラクルがイルミだって気付いてたんだ。
だから、あんなに惹かれた・・・・。)
「、降参してくれる?」
イルミは、を見つめて静かに告げる。
は戦うことも、今の状況も、考えられなかった。
ただ、考えることも出来ずに首を振る。
何に対しての否定なのか。
それは、イルミが目の前にいることの否定なのかもしれない。
もしくは、自分が存在することへの・・・。
がこの試合に負けを認めても、次の試合で戦えるような精神状態で無いのは明白だった。
ギタラクルは大きく溜息を吐くと、静かな声で呟いた。
「降参。・・・・オレがを攻撃出来る筈が無い。」
会場は静まり返った。
「ギタラクル選手の棄権により、勝者選手!!」
立会人の声で、ようやく時間が動き出す。
「・・・・・・・え?」
は、イルミを見つめた。
会場がザワつく。
「・・・・。」
「ですから、選手の合格です。」
無言で動けないに立会人は、そう言うだけだった。
その後も、試合は続く。
クラピカvsヒソカ、ハンゾーvsポックルの試合は、あっという間に終わった。
キルアもも、お互いに歩み寄ることもせず、呆然と恐怖と戦った。
「では、続きまして第5試合!!ギタラクル対キルア!!」
「・・・・・・。」
抜け殻になったようなの視界にキルアの歩く背中が映る。
「始め!」
だんだんと自分を取り戻し、状況を把握したは頭の隅で警報を聞いた。
は思わず、会場の外へ続く扉を目指した。
走るの足元に鋲が飛び、は足を止めざるをえなかった。
「・・・・逃げたらキルを殺すよ。」
がイルミを振り返る。
本気なのは分かっていた。
は震える体を抱き締めて、ただただキルアがイルミに負けるのを見ているしかなかった。
キルアを見殺しには、出来なかった。
それ以上に・・・・一度決心した心が揺さぶられるほど・・・イルミに嫌われたくなかった。
(イル・・・・・。私のこと・・・・)
イルミを忘れられないは、ギタラクルに決別を告げた。
それをイルミが、どう受け止めたのか。
(尻の軽い女だって・・・・見果てた・・・?)
は・・・ただイルミに嫌われたくない一心で、足が動かなかった。
「母さんと次男(ミルキ)を刺したんだって?」
「まあね」
イルミはまっすぐにキルアを見下ろし、のことなど忘れたようにキルアに問う。
キルアは平静を装いつつも、こめかみを多量に流れる汗が心中を物語っていた。
「母さん、泣いてたよ。」
「そりゃそうだろうな、息子にそんなひでー目にあわされちゃ。
やっぱとんでもねーガキだぜ。」
外野からレオリオが一人囃し立てた。
「感激してた。『あのコが立派に成長してくれててうれしい。』ってさ。」
それを聞いたレオリオは、盛大にズッコケた。
「『でも、やっぱりまだ外に出すのは心配だから』って。それとなく様子を見てくるように頼まれたんだけど。
と一緒にいるのは・・・・・偶然じゃないんだろ?」
「オレが家出に誘ったんだ。姉、婚約が嫌だって言うから・・・・。」
キルアは、を庇うようにして言った。
「キル!!
違うの・・・・イル、私がキルアに頼んだの。」
は、弟の優しさに顔を上げてイルミに訴えた。
イルミはを一瞥すると、キルアに更に問う。
「のことは、まぁいいよ。
けど奇遇だね。まさかキルがハンターになりたいと思ってたなんて。
実はオレも次の仕事の関係上資格をとりたくてさ。」
「別になりたかったわけじゃないよ。ただなんとなく受けてみただけさ。」
「……そうか、安心したよ。心おきなく忠告できる。お前はハンターに向かないよ。」
イルミの目は、闇のように深い。キルアの意思を捻じ伏せる力を持つ闇だ。
「お前の天職は、殺し屋なんだから。」
は、キルアとイルミのやり取りにもう口を挟めなかった。
イルミがキルアを家に戻す為に、キルアの意思を一つづつ潰していく。
キルアの唯一つの望み・・・・
「ゴンと友達になって、普通に遊びたい」という言葉を聞いた時、は一粒涙を零した。
優しい弟のこんな純粋な願いを聞いてあげることもなく、自分のエゴを押しつけている姿に吐き気すら覚えた。
キルアは、長い苦しみの後呟いた。
「まいった。
オレの・・・・・・負けだよ。」