「キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!」
甲高い声がゾルディック家に響き渡る。
Blood・3
「キルア!!待ちなさい!!」
屋敷全体が喧騒とした雰囲気にのまれる。
は、ぼんやりとした瞳でゾルディックの森から屋敷を眺めた。
(なに・・・・・?)
ぎこちない足取りで、森を騒ぎの方へ足を進める。
『ガサガサ!!!!』
の目の前を小さな物体が、勢いよく飛びだしてきた。
「キル・・・・・。」
「姉・・・・・。」
勢いよく飛び駄々してきた物体は、キルアだった。
二人は向かい合った。
「・・・・・何の騒ぎ?」
がキルアに問うと、キルアは気まずそうに顔を歪めた。
「・・・・・・豚君とおふくろ刺した。」
「・・・・なんで?」
は怒るわけでもなく聞いた。
そのことに少し安心したキルアは、少し顔を上げてに答えた。
「家出しようとするの止めたから・・・・・。」
「・・・・・・・・家出。」
はそう呟くと、しばらく黙ってしまった。
(家出・・・・・・・。この家を出る・・・・・。
そうすれば・・・イルミは、私に汚されることは無い・・・・・?)
イルミと離れることは、身を裂くほどの痛みを伴うことは分かっていた。
それでもは・・・・イルミを守りたかった・・・自分から。
黙ってしまったにキルアは不安を覚えた。
恐る恐るの名を呼ぶ。
「姉・・・・?」
「私も・・・・・家出する・・・・・・。」
「姉!?」
てっきり家出を止められると思ったのに、予想外のの言葉にキルアは声をあげる。
「姉は駄目だよ!!親父が怒り狂うよ!!それに明日、婚約者来るって・・・・・。」
そこまで言ってキルアは、黙った。そして、思い当たる節をに聞く。
「姉・・・・、婚約が嫌なの?」
は、キルアの優しさ・聡さに微笑を浮かべる。
は少し考えて、キルアに限られた真実を告げる。
「私ね・・・・・。好きな人がいるの・・・・・。だから・・・・だから・・・・・・。」
そこまで言っては寂しそうに笑った。
(だから・・・・ゾルディックには、もういられない・・・・・。)
キルアは、微笑んだ姉の眦に涙の痕跡を見つけた。
そして・・・・何も言わずにの手をとった。
二人はゾルディックを捨て、新しい世界に羽ばたいた。
一人は、希望を背負って・・・・。
もう一人は、絶望を背負って・・・・・・。
――― ザバン市行き飛行船。
二人は家を出てから、キルアの希望で飛行船に乗った。
家を出てからの瞳には生気が宿っておらず、まるで本来のの明るさは無かった。
キルアはそれに気づいていたが、どうすることも出来なかった。
飛行船からの夜景を見ながら、キルアはに今後のことを聞いた。
「姉は・・・・・これから好きな人のとこに行くの?」
はキルアの言葉に無表情に答えた。
「・・・・私ね。もう2度と好きな人には会えないの。」
まるでイルミのような無表情さ。双子と言えど、あんなにとイルミは違ったのに・・・。
キルアはと話している気がしなかった。
「え・・・・・・・。ごめん。」
咄嗟にキルアは謝罪した。
姉の想い人は死んでしまったのだ・・・と思った。
だから姉は彼女らしさを失ってしまったのだ・・・・とキルアは納得した。
それと同時にキルアは、にそこまで愛されたその男を羨ましく思った。
はキルアの勘違いに気づいていたが、想い人がイルミであることを告げられるはずも無い。
ただ首を振っただけだった。
「ううん。・・・・・・キルアは、これからどうするの?」
「俺は・・・・・・・ハンター試験ってのを受けてみたいんだ。」
「そう・・・・。じゃぁ、私も一緒に受けようかな?」
の言葉にキルアは、喜び叫んだ。
「そうしなよ!」
そして真剣な眼差しでを見つめ、小さく呟いた。
「・・・・・そんで・・・・新しく好きな人作れよ・・・・。」
風に掻き消されそうなキルアの声は、確かにの心に響いた。
「ありがとう・・・・・・キル・・・・・・。」
キルアが部屋に戻っても、はデッキで夜景を眺め続けた。
(新しく好きな人・・・・・か。きっと一生、イルミ以外好きにはなれないだろうけど。)
呪縛のように24年間、イルミを愛し続けてきた。
きっとその呪縛を解ける人など存在しない。
存在してほしくない・・・・・。
は自分の身体を抱きしめた。
自分の愛しい半身の代わりに・・・・・・・。
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