「ステーキ定食2人前。」
「焼き方は?」
「弱火でじっくり・・・・・。」
Blood・4
キルアとは向かい合い、静かにステーキにナイフとフォークを突き刺す。
食器の触れ合う音を立てない洗練された食事風景は、絵に描いたように優雅だった。
「まぁまぁ・・・・・ね。」
「うん、オレはもうちょっとレアな方が好きだな。」
「私も・・・・・。」
二人は、呑気に肉の焼き加減について感想を述べたりしている。
エレベーターが振動を止めると、はナフキンで口元を拭った。
『チン』
地下100階を示して、エレベーターは扉を開けた。
突き刺さる視線が、一斉にキルアとに浴びせられる。
しかしキルアとは、一向に気にした様子も無くエレベーターから悠然と歩き出す。
「こんにちは。こちらのプレートをつけてください。99番と100番です。」
正装をした男の人に、プレートを渡される。
どうやらハンター試験関係者のようだ。
キルアは99番を、は100番を受け取った。
「・・・・・・で?っていう・・・・・。」
は一人呟くと、壁際に歩み寄った。
その間もをチラチラと盗み見る視線はやまない。
その視線は好戦的と言うよりは・・・・・男特有のにやけた視線だった。
「姉、注目浴びてるな。」
「美人だからね。」
「・・・・・・・。」
注目を浴びる姉にからかいの言葉をかけるも、一蹴されてしまったキルア・・・・・。
しかし、否定はしない。
(美人ってより・・・・・・姉は可愛いけどな・・・・・・。)
などと思っていようとは、の知る由では無いが。
「新顔だね?」
とキルアが壁にもたれて周囲を観察していると、一人の男が話かけてきた。
「オレはトンパ。わかんないことがあれば、教えてやるよ!
オレは10歳から35回もハンター試験受けてるんだ。」
「へぇ〜。」
キルアが興味深そうに、トンパの言葉に耳を貸す。
はそんなキルアを見て、こっそり溜息を吐く。
(トンパの卑しい性を見抜いていながら、からかい半分に近づく。
キルの悪い癖だわ・・・・・・。)
「姉弟かい?」
「そう、オレはキルア。姉ちゃんは、。」
「ほうほう。まぁ、お近づきの印に・・・・・・。」
そう言って、トンパはジュースを2本出した。
「サーンキュ。喉渇いてたんだ!!・・・・・姉いる?」
キルアは2本受け取ると、1本をに差し出した。
目を細めながら・・・・・・。
(楽しそうね・・・・・・・・。)
「じゃあ、頂こうかしら。」
は缶ジュースをキルアから受け取り、プルタブを開けた。
口に含むなり、何らかの毒・・・・・もしくは薬物が混入されてることに気付いたが、はコクリと喉を鳴らした。
トンパは二人がジュースを飲んだのを見届けると、そそくさと逃げるように去って行った。
「なぁ、姉。」
「んー?」
「何の毒だろうな?」
「さぁ?でも致死量じゃないみたい。」
ジュースを飲みながら交わすキルアとの会話は、平然としながらも恐ろしい内容だった。
しかし、ゾルディックの毒入りの食事で慣らされている二人にとっては、何のことは無いジュースだった。
「オレ、もっと貰ってこよーっと。」
「からかうのも、程ほどにしておきなさいよ。」
キルアはジュースを飲み終えると、2本目を貰うべくトンパを探しに行った。
一人になったは、下剤の入ったジュースを飲んだことで家を思い出していた。
(パパ・・・・ママ・・・・・・・、心配してるかな?
ミルキやカルトちゃんにも・・・・・・何にも言わずに出てきちゃった・・・・・。
そして・・・・・・イルミにも・・・・・・・。)
はイルミを思い浮かべると、胸を締めつけられるような痛みが走った。
顔を合わせない日など無かったイルミと、初めてこんなにも長い間会わないでいる。
それがの精神を削り、常に寂しさと心細さがつきまとう・・・・・。
ふと視線を感じ、顔をあげた。
今まで浴びてきた視線とは違う温かい視線・・・・・。
どこか心地良く感じる風・・・・・。
は視線の主を探した。
そして視線の行きついた先には・・・・・・・・。
301番のプレートを胸につけた一人の男の人?
男の人と呼んで良いのかは分からないのは、彼が顔じゅうに鍼を指しているからだ。
小刻みにカタカタと揺れ笑う姿は、常人が見れば恐ろしさと気味悪さのあまり視線を逸らすだろう。
しかしの瞳は、彼に釘付けだった。
そこに5本分のジュースを飲んだキルアが帰ってきた。
「ただいま、姉!あいつ、ビビッてたぜ!!・・・・・姉?」
返事をしない姉の顔を覗き込めば、の視線は一人の男に向いていた。
「ねぇ・・・・・あの人、カッコよく無い?」
「は!?」
の唐突の言葉に目を丸くしたキルアは、が指差す人物を認識すると更に驚きの声をあげた。
姉の目がどうかしてしまったのかと、の顔と301番の顔を交互に見比べる。
「なんか・・・・すんごい気になるんだけど・・・・・。」
「そりゃ・・・・確かに気になるけど・・・・・・ってか、姉貴趣味悪すぎるから!!」
キルアは、が本気で言っていることに気付き頭を抱えた。
(そりゃ・・・・新しい好きな人見つけろとは言ったけど・・・・・・・。)
キルアはベリッとの視線を301番から剥がすと、自分に視線を向けさせ言った。
「姉、今は試験に集中しような!!
恋愛ごとは、試験に受かった後!!・・・な!!!!」
「・・・・・?・・・う・・・・・うん・・・・・・。」
はキルアの剣幕に押されて、とりあえず頷いておいた。
『ジリジリジリジリジリジリジリジリジリジリ!!!!』
大きな音が会場中を埋め尽くす。
正装をした背の高い男が、音を止めると告げた。
「ただ今をもって、受付時間を終了します。
では、これよりハンター試験を開始いたします。」
一次試験は、試験担当官サトツの後をついて行くことだった。
キルアは持参したスケボーを出した。
「キル。私も乗る。」
「・・・・・・・・・。」
キルアのスケボーに、とキルアの二人が乗る。
前方が、後方がキルアのため、スケボーを漕ぐのはキルアの役目だ。
一つのスケボーに二人が乗っているため、キルアはバランスに注意しなければならなかった。
「姉・・・・・。」
「なに?」
「これじゃ、遅くね?」
「・・・・・・。」
確かに周囲と同じ速さは保っているが、自分たちで走ったほうが速いのは確かだった。
「おいガキ!汚ねーぞ!!そりゃ反則じゃねーか、オイ!!」
追い越した受験者の一人に、とキルアは怒鳴られた。
キルアはと顔を見合わせた後、その受験者に言った。
「何で?」
「何でっておま・・・・・・こりゃ、持久力のテストなんだぞ!!」
「違うよ。試験官は、ついてこいって言っただけだもんね。」
キルアの問いに答えた受験者は、一緒に走る少年に諭され仲間内で口論しだした。
キルアと同じくらいの年の少年だろうか?
キルアは、その少年に目をつけると年を聞いた。
少年は自分を指差し、質問が自分当てであることを確認すると応えた。
「もうすぐ12歳!」
「・・・・・・・ふーん。」
は、そのやり取りを見て微笑んだ。
(キルアと同じ年・・・・・か。)
「やっぱ、オレも走ろっと。」
そう言うと、キルアはスケボーを降りた。
「キル。じゃ、引っ張って。」
「えー!!自分で走れよ、姉!!」
「いーや!!」
「・・・・はぁ〜。」
意地でもスケボーから降りようとしないに、キルアは仕方なく手を差し出す。
これではスケボーに乗っているだけで、運ばれることになった。
「オレ、キルア。」
「オレはゴン!」
「私は。」
キルアを筆頭に自己紹介を始めた。
「二人は姉弟なの?」
ゴンの質問にが答える。
「そうよ。似てるでしょ?」
「うん。綺麗な銀髪だね!!」
「ありがとう。」
ゴンのキザな台詞にキルアは驚いたが、は照れもせずに礼を述べた。
(姉・・・・。大人だ・・・・・。)
キルアは先ほど、怒鳴ってきた人物に目を止めた。
「オッサンの名前は?」
「オッサ・・・これでもお前らと同じ10代なんだぞオレはよ!!」
「「「ウソォ!?」」」
キルアと、そしてゴンの声が見事にハモった。
「じゃぁ、私より年下なんだ・・・・・。びっくり・・・・・。」
「「「えぇ!?」」」
今度はゴン、レオリオ、クラピカまでもが驚いた。
「って10代じゃないの!?クラピカと同じ年くらいかと・・・・・。」
ゴンがとクラピカを見比べる。
「姉は、童顔だからなぁ。」
「そうなのよねぇ。私はもう24歳になりまーす。」
姉弟が顔を見合わせて、苦笑した。
「信じられない・・・・・・。」
「マジかよ・・・・・・。」
「へー・・・・・!」
クラピカ、レオリオ、ゴンは、各々独り言を呟いていた。
しばらく進むと、一同の前に出口が見えないほどの長距離の階段が現れた。
「!!」
「・・・・・・・なんて長い階段なんだ。」
クラピカが階段を見上げ、思わず呟いた。
それほど、その階段は受験者たちの心を折るものだった。
「はぁ〜・・・・、ついにスケボーともサラバか・・・・。」
は、泣く泣くスケボーから降りるとキルアにスケボーを返した。
階段を駆け上がりながら、クラピカ&レオリオ組とは別れてしまった。
はゴンやキルアとともに、ものすごいスピードで駆け上がって行った。
「あ・・・・・・。」
(301番の人だ・・・・・・・。)
は先頭グループの後方に、試験会場入り口で目を奪われた301番の姿を見つけた。
は、301番の斜め後ろにピッタリとくっつき走り続ける。
それに気付いた301番は、少しペースを落としと並んで走った。
カタカタと揺れる301番と熱いまなざしを交わしあう。
(私・・・・・・、イルミ以外の人を好きになれないと思ったのに・・・・。
この気持ちは・・・・・・・・・。)
イルミ以外の男を好きになるということ・・・・・。
呪縛から解放されるということ・・・・・・。
は、今までに無い希望を301番に見出していた。
は、激しい動機を感じた。
それは決して走っているせいではなく、恋を予感させるものだった。
頬が赤くなるのを止める術も無く、は勇気を振り絞って301番に話かけた。
「あ・・・・・・の・・・・・・。あなたの・・・・お名前・・・・・。」
「姉!!」
キルアが叫び、と301番の間に割って入る。
「ペース上げるぞ!!いつまでも、チンタラしてられねーよ!!」
キルアはこめかみをヒクヒクさせ、の腕を掴むと猛ダッシュをかけた。
「あ・・・・・・・。まって!キル・・・・・ちょ・・・・・!!」
はそのまま、キルアに引っ張られるままに先頭集団のトップに躍り出ることになった。
試験官サトツの後ろまで走り出ると、は烈火のごとくキルアを怒った。
「キルア、ひどい!!!せっかく、話掛けようとしたのに!!」
の凄まじい怒りように、キルアもタジタジとなり言い訳も上手く口を吐かない。
「・・・・え・・・だって・・・・・・・その・・・・・・姉、走って髪が乱れてたから・・・・。
乱れた髪で・・・・・気になる男の前にいるのは嫌だろ?」
キルアの嘘とも知らず、は真に受けショックを受けた。
「え!本当!?恥ずかしい!!
うわぁ〜ん、ブサイクと思われたかなぁ!?」
「いや・・・・・大丈夫じゃね?」
キルアはフォローも出来ずに、やれやれと冷や汗を拭った。
は階段の出口に着くまで、手串で髪を整えることをやめなかった。
そして光の先、階段の出口は、ヌメーレ湿原へと続いていた。
ヌメーレ湿原・・・・・通称”詐欺師の塒”・・・・・・・・・・。
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