「ヌメーレ湿原。通称”詐欺師の塒” 

 二次試験会場には、ここを通って行かねばなりません。

 ここの生き物は、ありとあらゆる方法で獲物を欺き捕食しようとします。



 詐欺師の塒と呼ばれる由縁です。

 十分注意してついてきてください。



 騙されると・・・・・・・・・・・・・・・死にますよ?」







     Blood・5






湿原でのマラソンは思った以上に受験生を苦しませた。

がぬかるみに足を取られるようなことは無かったが、靴越しに伝わる地面の感触に不愉快さは隠せなかった。



「霧が・・・・・」



視界を靄のように、覆いつくす霧が受験生の行く手を阻む。



「ゴン、姉、もっと前に行こう。」

キルアは、すぐ隣を走るとゴンに言った。



「うん!試験官を見失ったら大変だもんね!」

ゴンはキルアの言葉に頷いた。


キルアは、ゴンの言葉に本当の理由を告げる。

「そんなことよりヒソカから離れた方がいい。
 あいつ殺しをしたくてウズウズしてるから・・・・・。」


キルアの言葉にが頷く。

「霧に乗じてかなり殺るでしょうね。」



ヌメーレ湿原についた途端に起きた偽試験官事件・・・・・。

そこで受験生の一人であるヒソカは、他の受験生に恐怖を植え付けた。


好戦的な態度と残忍な殺し方を披露して・・・・・。


キルアももヒソカからは、同じ闇の匂いを嗅ぎ取った。



(かなりの念能力者みたいだしね・・・・・・。)



「レオリオー!!クラピカー!!キルアとが前に来たほうがいいってさー!!」


突如、後方を振り返り叫びだしたゴンに、は目を丸くした。

隣を見ると、キルアはあきれ返ってるようだ。

そんなキルアと目が合い、二人で苦笑してしまう。



(こんなキル・・・・、初めて見るな・・・・・・。)






「霧が・・・・・濃くなったわね・・・・。」

急速に霧は周囲を覆いつくし、隣を走るキルアの顔さえぼやけだした。


後方からは、この地に棲む生物に騙されたのであろう。

悲鳴が後を絶たない・・・・・。



ゴンが心配そうに後方を振り返る。


「ゴン・・・・・、ゴン!!」

「え?何?」


そんなゴンを心配してか、キルアがゴンに声を掛ける。



「ボヤッとすんなよ。人の心配してる場合じゃないだろ。」

「うん・・・・・・」


そんなふたりのやり取りをは興味深く見ていた。


(キルアが他人の心配をするなんてね・・・・・・。
 よっぽどゴンが気に入ったのね。)


キルアはもともと優しい子だった・・・・・とは考えを改めた。

どんなにイルミがキルアを残忍な暗殺者に育てようと、その根本は変わらないのだ。






「!!レオリオ!!」

ゴンは突如レオリオの名前を叫ぶと、後方へ向かって走り出してしまった。


「ゴン!!」

キルアがゴンの名を呼ぶが、ゴンが振り返ることは無かった。


「・・・・・・あの馬鹿!」

キルアはそう言うと、前を睨み再び走り出した。


その表情は何処か悔しそうだ。



「・・・・・・・・キル。」

は、静かにキルアを呼びと止めた。

おもむろに自分の左足首につけているアンクレットを外す。

アンクレットには幾多にも鈴が連なっていた。

そこから鈴の一つを外し、キルアに渡す。

残りの鈴は、元通りアンクレットとしての左足首に戻った。


「次の試験会場についたらこれを鳴らして。
 私はゴンの様子を見て来るわ。」

姉!?」

「じゃあね。」


はそう言うと、後方へと走り去った。




本気で走るが、ゴンに追いつくのは容易い。


ゴンに追いついたが見たものは、ヒソカに挑みかかるレオリオの姿・・・。

レオリオの後方に回りこんだヒソカ・・・・。

そのヒソカからレオリオを救おうと、釣竿で攻撃の狙いを定めているゴン・・・・・。



は、瞬時に左足首で鈴を鳴らした。


『シャン・・・・・・』


死神の葬送曲(デスサイズ・ハウル)・・・・・・・・。

鈴の響きは、念音波となりヒソカの神経を一瞬鈍らせた。





その結果・・・・・・・。


『ドコッ!!!!!!』


ゴンの釣竿の錘は、見事にヒソカのこめかみに直撃した。

レオリオ、クラピカ、ヒソカ・・・・、その場にいる者の視線がゴンに注がれる。



「!?・・・・・・ゴン!?」

レオリオはゴンの姿を認めると、驚きの声をあげた。



「やるねボウヤ♪・・・・そこの君も

ヒソカは、ゴンの姿とともにを認めると目を細めた。



ヒソカの言葉にゴンは後方を振り返り、驚いた。


!?」


キルアと先に行ったとばかり思っていたが、そこにいたのだ。



ヒソカは、ゴンに興味を向けると静かにゴンに歩み寄った。

「釣竿?おもしろい武器だね ちょっと見せてよ◆」




レオリオは、そんなヒソカの後方から木の棒を振りかざした。

「てめェの相手はオレだ!!」


ヒソカはレオリオの攻撃に、体の向きを変えることも無く一撃でレオリオを地に伏せた。

ゴンは驚き、ヒソカに釣竿で殴りかかった。



しかしの助けも無く、同じ技はヒソカには通用しなかった。

ヒソカは素早い動きでゴンの後方に回りこむと、ゴンの細い首筋に手を掛けた。


「仲間を助けにきたのかい?いいコだね〜〜〜〜〜〜〜★」


ヒソカはゴンの顔を覗きこみ、その意思の強い瞳と視線を交わした。
緊迫した空気が、ゴンに冷や汗を流させる。


しかし・・・・

「うん!君、合格 いいハンターになりなよ★」


ヒソカは一変してニッコリ笑うと、そう告げた。




『ピピピピピピピピピピピピピピピピ』


まだ警戒態勢をとるヒソカ以外の人間の中、一つの電子音が鳴り響く。

ヒソカから聞こえるその電子音は、ヒソカの手によって鳴り止んだ。


携帯電話を取り出し、呼び出しに応じるヒソカ。


「うん・・・・・・、そう?すぐ行く♪」


ヒソカは1分もしない会話で携帯電話を切ると、地に伏したレオリオを荷物のように抱えあげた。



「レオリオ!!」

ゴンが、声を荒げる。



ヒソカは、振り返りもせずにゴンに答えた。

「大丈夫、殺しちゃいないよ♪彼も合格だから 


「どうゆうこと!?レオリオを返して!!」


「うん?・・・返してほしかったら、ついておいで◆」

そのままヒソカは、歩き出した。



ふとの目前を通り過ぎたときに、ヒソカは足を止めた。

「君は・・・・・・誰かに似てるなぁ・・・・・・★
 何て名前なんだい?」



は、冷ややかな目でヒソカを見ると静かに答えた。

「・・・・・・・・・・・・ゾルディック。」



「なるほど♪・・・・・・美しいねぇ★」

ヒソカの指がの銀に輝く髪に触れようとした。



『パン!』


は、ヒソカの手を勢いよく振り払った。


「くっくっくっく 高貴なお姫様は、双子の王子様の手しか取らないのかな・・・・・♪」


「!?」


「ではでは、道化師は消えるとします◆またお会いしましょう、お姫様・・・・・・★」


ヒソカは器用に一礼した後、霧に姿を隠して行ってしまった。




は、ヒソカの後姿を睨み続けた。




『・・・・ぃん・・・・・・りぃん・・・・・りーん・・・・・』


にだけ聴こえる鈴の音に、は自我を取り戻した。

振り返ると、ゴンは脱力したように座りこんでいた。



(無理も無いわね・・・・・。)




「先に・・・・・行くわね?」


が、ゴンとクラピカに声を掛けると二人はただ頷いただけだった。

一緒に連れて行くことは、容易いがそれでは、この試験の意味が無い気がした。



鈴の音に耳を澄ませ、は走り出した。


”木霊の呼声(サモン・エコー)”


が念をこめた鈴は、何km離れていても念をこめたにだけ聴こえることが出来る。

はキルアに渡した鈴にあらかじめ念を込めておいたのだ。

はただその鈴の音を辿れば、二次試験会場に着くと言うわけだった。




「あ!姉!!」

鈴の音に導かれた結果、二次試験会場でキルアは手を振ってを出迎えた。

が全速力で走ったせいか、二次試験会場には難なく到着した。



「ありがと、キル。」

は鈴をキルアから受け取ると、アンクレットに再び組み込んだ。



姉!どうゆうカラクリでこの鈴が聴こえたんだよ!?」

「・・・・・・・・。」


念を説明しないと、確かに常人では考えられない耳の良さ・・・・・ということになってしまう。



「・・・・・修行あるのみ。」

は、限りなく真実に近い嘘を言ってキルアの疑問に答えた。


「なんだよ、それー。」

キルアは不満そうに尚も、問い詰めようとする。


「そうそう、ゴンなんだけど・・・・・。」

は、キルアの問いを誤魔化すように話題を変えた。


少しわざとらしかったが、キルアは素直にその話題に食いついた。



「!!・・・・そういやぁ、姿見えないけど・・・・・。」


「うん、置いてきちゃった。」


「あぁ!?・・・・追いかけた意味無いんじゃ・・・・・。」


キルアは、姉の考えが分からないとばかりに大きく溜息を吐いた。



二次試験会場は、まだその姿を現していなかった。

試験の会場になる建物は、その大きな扉を閉ざしたままだ。

扉には大きく「本日 正午  二次試験スタート」と書いてある。



「12時にはまだ少し時間があるわね。きっとゴンたち間に合うわよ。」

「うん・・・・・。」


の言葉にキルアは、頷いただけだった。




「あ!ほら、キル。ゴンたち、来たよ。」

は走り寄るゴンとクラピカの姿を発見すると、キルアに告げた。



「本当だ!」

キルアはどこか嬉しそうにゴンたちの元へと駆けて行った。



はそんなキルアを笑顔で見送ると、ヒソカに視線を向ける。





(ヒソカは・・・・・・イルミを知ってる・・・・・?)


の視線に気付いたのか、ヒソカがの瞳を真っ向から受け止める。

その口元には、不敵な笑みを貼り付けて・・・・・。







時計の針が12時を指した・・・・


二次試験会場のその大きな扉は、ゆっくりと開かれた・・・・・・・。









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