『ごぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお』
『ぐるるるるるるるるるるるるるるる』
まるで地響きのような音・・・・・。
それだけが辺りを包んでいた・・・・・。
Blood・6
正午きっかり。
時計の針が12時を指すのと同時に、二次試験会場はその全貌を見せた。
「どお?おなかは大分すいてきた?ブハラ。」
「聞いてのとおり。もーペコペコだよ、メンチー。」
そこには若い女と巨漢な男が、受験生の正面に来るように座っていた。
地響きのような音は、どうやらブハラという男の腹の音だったらしい・・・。
「そんなわけで二次試験は料理よ!!」
「料理?」
「料理だって?」
「やったことねーぞ!」
「料理か・・・・・・。」
思っても見なかった試験官の言葉に受験生たちがざわめく。
そんな受験生たちの中で誰よりも青ざめた顔色をした人物がいた・・・・。
である・・・・・。
「りょう・・・り?」
は真っ青になった。
「キル・・・・・。私・・・・・・」
今にも泣きそうな顔で、はキルアを見た。
「・・・・姉・・・・、その・・・・えっと・・・・・手伝うから・・・・・。」
キルアも”料理”と聞いた途端に、横目での様子を伺っていた。
冷や汗を浮かべて、を慰める。
の最も苦手なこと・・・・・・それは”料理”だった・・・・・・。
も一人の女性。
たまには料理を行うこともある。
しかしの作る料理は、毒で慣れたゾルディック家の家族の者が死線を彷徨うほど不味いものだった。
それ以来、母キキョウも決してに料理をさせようとはしなかった。
「オレのメニューは・・・・豚の丸焼き!!オレの大好物!!」
ブラハがメニューを発表すると、受験生たちは静まり返った。
あの巨体の大好物が”豚の丸焼き”など・・・・セオリー過ぎるからだ・・・・・。
「豚・・・・・・の丸焼き・・・・・・・。」
は呟き、キルアを見た。
「これならイケルよ!!姉!!」
キルアは頷くと、親指を立てた。
「それじゃ・・・・・二次試験スタート!!」
は、他の受験者たちとともに森へと走った。
森林公園に棲む豚、グレイトスタンプ。
世界で最も凶暴な豚もの前では、従順なペットのようだった。
は、高らかに歌いだす。
”Alleluja Alleluja Alleluja Alleluja
Alleluja Alleluja Alleluja Alleluja
Alleluja Alleluja Alleluja Alleluja ”
癒し効果を持つ「精霊の神楽(フェアリー・ブレス)」を使い、豚の興奮を抑える。
豚は大人しくの元へとひざまづく。
は笑みを浮かべ、歌いながら火をくべる。
豚は生きたまま焼かれていると言うのに、暴れることも叫び声をあげることも無いままの歌に酔っているかのようだった。
歌声に包まれるようにして、豚は焼き殺された・・・・・。
「姉!!」
「キル・・・・・。」
歌声を聞きつけたのか、キルアが豚の丸焼きとともにの元にやってきた。
「姉!!焼きすぎだから!!もういいから!!」
「え?」
は、キルアに促されて豚を火から降ろした。
少し焦げているが、キルアのお陰で食べれる範囲のようだ。
「さぁ、行こうぜ!!」
「そうね。」
二人は豚の丸焼きを担いで、試験官の元に急いだ。
「うん、おいしい・・・・・。これもウマイ・・・・・。・・・・これは!!」
ムシャムシャと大量の豚の丸焼きを食していたブハラが、一匹の豚の丸焼きで手を止めた。
それは・・・・・が持ってきた豚の丸焼きだった。
キルアは、その豚の丸焼きが作である事に気付くと頭を抱えた。
「・・・・やっぱ焦げすぎだったか?それとも姉・・・・変な味付けしたとか・・・・・・?」
「ちょっ焦げてるけど・・・・、すごく美味しい!これ、どうやったの?」
ブハラの問いにキルアが顔を上げた。
は初めて料理を褒められ、嬉しそうに頬を染めた。
「えへへ・・・・。生きたまま焼いただけですよ?」
「生きたまま!?あの凶暴なグレイトスタンプを生きたまま!?」
ブハラは驚いた。
メンチは、ブハラの手から一口豚の丸焼きを口に入れてみた。
「本当だ・・・・・・。身が締まってて美味しい・・・・・・。
なるほど・・・・・。豚の残酷焼き・・・・か。」
メンチは美食ハンターとして、この料理が気に入ったようであった。
『ゴォオオオオオオン』
「終ー了ーーーーーーーーーーー!!」
ブハラが豚を70匹平らげたところで、二次試験前半は終了した。
「キル!!私、初めて料理褒められちゃったv」
「・・・・・俺が止めなきゃ今頃・・・豚の炭を食わせてたくせに・・・・・。」
「何か言った!?」
「なんでも・・・・・・。」
「二次試験後半。あたしのメニューはスシよ!!」
メンチの発表で、受験生たちの間にざわめきが広がった。
「スシ・・・・・?」
は聞き覚えの無い名前に首を傾げた。
試験会場には、包丁やまな板・・・・・ご飯が用意されている。
(さっきのようには・・・・いかないんだろうなぁ・・・・・。)
は本格的に料理をしなくてはならないことに、不安を隠せなかった。
(この料理を知ってる人、いないのかな?)
は周囲を見渡す。
すると笑いを堪えきれない様子の294番・・・・・。
(あいつ知ってるな・・・・・・。)
「魚ァ!?・・・・お前、ここは森ん中だぜ!?」
「声がでかい!!」
ラッキーなことにヒントを大声で叫ぶ人間までいた!!
(魚!!)
も川に向かって走り出した。
周囲に人間もいるので目立たないようにアンクレットの鈴を使う。
『りぃぃぃぃん』
死神の葬送曲(デスサイズ・ハウル)で、狙った川魚の心臓を破壊し浮いてきたところを掬った。
5〜6匹魚を掬い、は調理場へ戻った。
「ここからが問題ね・・・・・。」
調理場に戻り、294番のハンゾーの調理法を盗み見る。
(魚をさばいて・・・・・・ご飯にのせれば良いのか・・・・・。)
は思い切って、魚の頭をぶった切った。
『ダン!!!』
魚の頭は宙を舞い、レオリオの頭に不時着した。
「?????うわー!!!!!!!」
レオリオは頭に乗った血だらけの魚の頭に悲鳴をあげた。
は次にハンゾーがやっていたように、魚の腹に包丁を差し込んだ。
『グサッ・・・・・』
「いったーい!!」
魚の腹に突き刺さるはずの包丁は、何故かの掌に・・・・・・・。
「あばばばばばばばばばば・・・・・」
は慌てふためいた。
『ぐいっ』
唐突には後方から傷ついた腕を掴まれた。
そのままの体勢で、血の流れる掌を水道の水で洗われる。
(だれ・・・・・?)
後方から抱きしめられるようにして、の胸は高鳴った。
背後に立たれるのは嫌いなはずなのに不思議と嫌じゃない。
自分では無い香りに包まれて、いつまでもこうしていたいとさえ感じてしまう。
覚えのある香り・・・・覚えのある感触だった・・・・・・・・。
しかし・・・・・固く鍵をかけた記憶は・・・・思い出すことを拒否していた。
しばらく水で傷を洗い流した後、ようやくは背後の人物の顔を見ることが出来た。
(301番・・・・・・・・。)
が、気になって仕方の無かった男がそこには立っていた。
301番は、ハンカチを取り出すとの傷に優しく巻いた。
二人の視線が絡まりあう。
「・・・・・あ・・・・・ありがとう・・・・ございます・・・・・。」
はそれだけ言うのが、やっとだった。
301番は、何事も無かったかのようにカタカタと小刻みに揺れながら戻って行った。
は、傷ついた手を・・・・・・301番が巻いてくれたハンカチを・・・・
いつまでも見つめていた・・・・・・。
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Hunter夢の部屋へ
※作曲:Mozart 「Alleluja(ハレルヤ)」