白い月

月には魔性の力が宿っていると言う

惹きこまれそうな美しさ

月と海に抱かれて私はもう一度生まれ変わった・・・・・・







   Diva・2












誰かの声がを混濁した意識から引き起こす。

「・・・・い!・・・・・おい!・・・・・・しっかりしろ!!」


呼び起こされるように、うっすら目を開ける。

銀色の光・・・・・・。



「大丈夫か?」

低く響くその声は、の身体に優しく染みてなんだか泣きたくなった。


「わ・・・・た・・・・・し・・・・・」

「溺れたのか?・・・・・お前は砂浜に倒れてた。」

「あ・・・・、波がいきなり迫ってきて・・・・・・。
助けていただきありがとうございます・・・・・っ!?」

はお礼を言い、ようやくその命の恩人の顔を見上げた。

そこには・・・・・・漫画から抜け出てきたように俺様オーラを放っている存在が。



「・・・・・・・私、まだ夢見てるの・・・・・・?」

目の前には跡部景吾が少し眉根を寄せて私を見ている。

「夢の中にまで跡部様を見るって・・・・・・どんだけ・・・・・。」

「お前、俺様を知ってるのか?」

「うわぁ〜。生『俺様』だぁ〜・・・・・!感激だなぁ!!」

「・・・・・・おい。ちなみにお前はちゃんと目を覚ましてる状態だ。これは現実だ。」

「・・・・・・・痛い!!」

頬を走る痛み。それは跡部景吾がの頬を抓ったからだ・・・・・・。



「痛いってことは・・・・・・えええええええええ!?トリップ!?」


は再び意識を手放した・・・・・。


 

 








 

 




音楽が聞こえてくる・・・・・・・。

ハープの音色。

どこから・・・・・・?

足を一歩踏み出せば、ふわふわとした感触に二歩三歩と足はひとりでに動き出す。

唐突に表れる巨大なハープ。

一軒家程の高さがある・・・・。この楽器を弾ける人なんているのか・・・・?

「あ・・・・・アヴェ・マリア・・・・・・。」

ハープがの知ってる曲を奏でだした。シューベルト作曲のアヴェ・マリアだ。

自然と歌がから漏れる・・・・・。

 

 

”Ave maria 優しき聖処女よ

けわしくそそり立つこの岩から一人の乙女の捧げる祈りを聞かせたまえ

我が祈りをあなたの御許に届かせたまえ

世の人の心はなおこんなにも険しいけれども 我々は安らかに眠って朝を迎える

おぉ聖処女よ この乙女の悩みを見させたまえ

おぉ母よ この祈り聞かせたまえ  Ave maria”

 

 

空気に溶け込むような声で優しく厳かに、その音楽は響き渡った。



・・・・・。・・・・・。
 ・・・・・・・・・・・・・。‘


は自分を呼ぶ声に周りを見渡した。

ハープから・・・・?


、あなたは音楽を捨ててはいけません。
 私が許しません。あなたは音楽を続けるために
 住む世界を変えなさい。
 あなたは新しい世界で音楽を続けるのです。‘


不思議な声は、空間を埋め尽くしの心に強く響く。

「・・・・・・・・・元の世界には戻れないのですか?」

自分を異界へと運んだ畏怖する存在には、恐々と口を開いた。


‘あなたが新しい世界で今のあなたと同じ年になった時に
 もう一度 あなたに尋ねます
 その時に帰りたいと願うなら元の世界に帰しましょう‘

優しいその言葉には、ほぅ〜と溜息を吐いた。





‘さぁ 新しい世界であなたの歌を更に磨きなさい‘






強い光がを包む。





 

 



 

 






「ん・・・・・・・。」

再び目を開けると、自分が豪奢なベッドに寝かされているのに気づいた。

「・・・・・お姫様ベッド。」

天蓋が天上から吊るされベッドを覆っているそのベッドは乙女の憧れだろう。

はベッドからそっと降り、部屋の様子を伺った。

「どこ・・・・・?」

(病院では無いよね?まさか跡部様の行きつけの病院は個室がこんなにゴージャスとか!?)

小市民であるは、あうあうと焦った。

とにかく部屋を出てみようと部屋の入り口に向かう。



扉の近くには大きな姿見があった。

はなんの意識無しに鏡を覗く。

「!?・・・・・ええええええええええええええええええ!?」

そこには確かに自分ではあるが、幾分幼い顔つきのが立っていた。

ヒラヒラフリフリのネグリジェを着て・・・・・。


(この格好は!?・・・・・いや、もちつけ!自分!!というか若返ってね?)

は夢で見た言葉を思い出した。

‘あなたが新しい世界で今のあなたと同じ年になった時に
 もう一度 あなたに尋ねます
 その時に帰りたいと願うなら元の世界に帰しましょう‘

(つまり・・・・元の世界の私より若いわけだ・・・・・・・・。)



『バン!!』

「どうした!?」

突然の衝撃音と共に、跡部景吾は緊迫した雰囲気をまとい姿を現した。

「ひぇ!?」

は間抜けな声を出して、飛び上がった。


「おい!どうした!?」

跡部景吾はを見るや、眉根を寄せて声を荒げた。

はそんな跡部景吾の姿に驚き、しどろもどろに答える。

「いえ・・・・・・。自分の姿に驚いて・・・・・。」



「・・・・・・・・・・。」
「・・・・・・・・・・。」



「似合ってるから安心しろ。」

跡部景吾は、いつもの俺様笑いを浮かべるとにそう言った。

はドキンと胸を鳴らし、押し黙ってしまった。


そんな自分を隠すようには、話題を変えた。

「それより、ここはどこなんですか?」

「俺様の屋敷だ。」

「はう!?・・・・跡部様の屋敷・・・・・・・。」

(すげー!すげー!本物のお金持ちの家だわ〜。)

内心ミーハーな自分が小躍りしたが、は自分を諌めて頭を下げた。

「わざわざ、ご自宅で介抱してくださりありがとうございました。
 突然、お邪魔してしまってスミマセン!!後日、改めてお礼に伺います!!」

「・・・・あぁ。気にするな。帰るのか?身体は・・・・?」

「はい、もう大丈夫です!お暇させていただきます。」

「・・・・・家はどこだ?送っていってやるよ。」

「え!?そんな悪いです!!」

「お前、荷物何も持って無かったけど、帰る金が無いだろう?」

「えええええ!?そうなんだ・・・・・。波にのまれちゃったんだ・・・・・。」

急に心もとなくなってツーンと鼻をついた痛みに、は泣くまいと目を瞬かせた。

ふわりと頭に優しい感触が降って来る。

「心配するな。ちゃんと家まで送ってやる。」

跡部景吾の掌が優しくの頭を撫でた。

潤んだ瞳では跡部景吾を見上げた。

跡部景吾は一瞬、ハッと息を呑んだ。

「ありがとうございます。跡部様。」

「景吾で良い。」

「え?」

「俺のことは景吾で良い。・・・・お前の名前は?」

「あ・・・です。」

・・・・・か。」

景吾はの名前を大切なもののように呟いた。

そんな景吾を理解してか、名前を呼ばれただけなのには真っ赤になった。



「で、の家はどこだ?あの海の近くか?」

景吾の言葉にはハッと我に返った。

帰る家は果たしてあるのか・・・・・・?

「・・・・・・あの・・・・・電話をお借り出来ますか?
先に家に連絡をしたいんです・・・・・・。」

「構わない。」

景吾はズボンのポケットから携帯電話を取り出すとに渡した。

「あ、ありがとうございます。」

は慣れ親しんだ家の電話番号を押した。

耳にあてかえってきたのは呼び出し音ではなかった。


『お客様のお掛けになった電話番号は現在、使われておりません・・・・。番号をお確かめのうえもう一度・・・・・』


そのアナウンスは、が家に電話した中で初めて聞くものだった。

やっぱり・・・・と思う気持ちと、何かの間違いだ・・・・・と思う矛盾した考えが頭をグルグルと回る。

もう一度、確かめるように番号を押して掛けなおす。

しかし、結果は同じだった。



何回か同じ行動を繰り返した後、は途方にくれた。




「どうした・・・・・?」

茫然自失のに景吾は腫れ物に触れるように声をかけた。




は呆然としたまま、景吾と目もあわせず口だけが動いた。




 

 




「家が・・・・・・・・無いんです。」


 

 

 

 

 

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※作曲:shubert  「Ave maria」

管理人独唱 
http://www.geocities.jp/hisui_tefutefu/music/shubert.html

ようやく跡部様が出てきました。1話で跡部様出てこなかったので
私が焦りました・・・・・orz